■ カール・ルイスの走りを目撃した日
みなさんは伝説のアスリート、カール・ルイスの走りを生で見たことありますか?
と言っても若い人はピンときませんか?
1980~90年代に長く陸上競技界のトップに君臨し、世界大会での金メダル獲得数17個、ロス五輪での四冠、五輪走幅跳四連覇、世界陸上100m三連覇(当時は4年越しの開催)など、恐るべき偉業を成し遂げた人です。
記録もさることながら、最後に抜き去る劇的なレース運びと、「空中遊泳三歩半」と形容された華麗な跳躍、宿敵ベン・ジョンソンとの一騎討ちなど、記憶にも残る超スーパースターでした。
そんな雲の上の人を私は幸運にも中京大学在籍中に、大学のトラックで目撃したことがあります。たしかテレビ番組企画の一環だったかと思います。
しかも東京世界陸上で100mの世界記録を出した直後のカール・ルイスですよ!
ただしレースではなく軽い練習だけでしたけどね。
な~んだと思うことなかれ、レースでも華麗な走りを見せるルイスのウインド・スプリントですからね。
いや~、この世のものとは思えない優雅さで興奮しました。
まず、接地のインパクトが他の選手とは全然違います。
表現が難しいですが、音もなくスッスッというアクセントで地面を滑る感じと言えば伝わるでしょうか?
その走りのスムーズさといったら、隣で走るルイスのチームメイトとは、普通電車とリニアくらいの差がありましたよ。大変失礼ながら。
私の頭にある「走り」の概念すら変えてしまうほどのインパクトでしたね。
もし、陸上競技に「型」の種目があったなら、ルイスは間違いなく五輪で十連覇くらいしてるんじゃないですか?
ボルトの走りは野性的な美しさですが、ルイスの走りはヒューマン的な美しさがあると思いますね。
ルイスはわずかな時間で大学のトラックから去っていきましたが、本当に良い夢を見させてくれましたよ。
■ 特殊なスーパースター
あらためて考えると、ボルトの強さも驚異的でしたが、100mと走幅跳両方で勝ち続けたルイスはもっと驚異的ですよ。
それがどれだけ至難の技か、関係者の方はよくご存じかと思います。
確かに、100mが速い人ほど走幅跳は有利ですが、県レベルの競技会ですら、この両種目で優勝する人は滅多にいません。全国大会ならなおさらです。
それをルイスは世界大会で四度もやってのけてるんです。
記録的にも、1991年東京世界陸上の100mで世界新、同大会の走幅跳では追参とはいえ不滅と言われたボブ・ビーモンの世界記録を越えたのですから、本当に有り得ないことです。
こんな特殊なスーパースターは今後100年は出てこないでしょうね。
余談ですが、我が先輩で、かつての100m日本選手権覇者、鈴木久嗣さんが中京大記録会の走幅跳に出場した際、助走スピードが出過ぎて、踏み切れなかったことがありました。
元全日中走幅跳チャンプでさえ、そうなっちゃうんですからね。それだけこの両種目で勝つのは難しいんですよ。
同じく先輩で、元100m日本記録保持者の青戸慎司さんがルイスと勝負した時の様子を
「自分が歩いている横から、流しで走り去っていく人のような感じで抜かされた」
と形容したそうです。
って・・日本代表選手相手にどんだけの加速力だよって話ですよね。
あ、一応青戸さん本人から聞いた訳ではないので、あくまで都市伝説としておいて下さい。
■ ルイスの影響力
さて、ルイスをこれだけ讃えておいて、こう言うのも何ですが・・・
あくまで私個人的な意見ですよ。
カール・ルイスとベン・ジョンソンの存在は、あの時代の日本短距離界の発展に少なからずブレーキをかけていたと思うんです。
というのは、この二人のスター性があまりに強すぎて、それに憧れた当時の陸上少年達がルイスの膝の高いフォームを真似たり、ベンみたいな筋肉を目指して、ウエイト・トレーニングに励んだりして、日本人本来の走り方を見失ってたんじゃないかと。
しばらくして、二人の真似をしても黒人選手には敵わないと気付き、日本人に合った走り方を磨いた結果が、近年の日本短距離陣の躍進に繋がったと思うんです。
みなさんはどう思われますか?
なにはともあれ、みなさんも今一度、カール・ルイスの数々の名勝負をチェックしてみてはいかがでしょうか。
特にロス五輪の四冠と東京世界陸上の100mと走幅跳はお薦めです。
今回も最後まで読んで頂き、大変ありがとうございました。