さぁ行こう!100m9秒台の世界へ

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人 類 最 速

この言葉、何度聞いてもゾクゾクしませんか?

陸上競技の100mという種目は全スポーツ中、最も単純かつ短時間で決着がつき、

競技者と観る者にとって、時間あたりの興奮密度が最も高い競技。

と言えるのではないでしょうか。

人類最速の称号をかけた男達の頂点がオリンピックや世界選手権のチャンピオンであり、

更にその上を行くグランドチャンピオンが、世界記録と数々の世界タイトルを持つウサイン・ボルトという訳です。

考えたらスゴいと思いませんか?

かけっこなんて子供からお年寄りまで誰もができることですし、足が速い人なんて、どこにでもいる訳じゃないですか。

その中の世界一位を決めようっていうんですからね、この競技は。

オリンピックの花形と言われるのも、壮大なロマンを掻き立てられるのも、

それ故だと思うんです。

漫画「スプリンター」に登場する100mの世界チャンピオン、ジャック・スペンサーに対し、

「もしもよ、地球上にいる人間全員が横一線に並んでヨーイドンで走ったら、

間違いなく彼が一番先にゴールするんだからね、やっぱり凄いことだよ」

みたいなセリフがあって、「ウォーッ!」ってなったことがあります。

ボルトなんて全世界どころか、

これまで地球に誕生した全人類が横一線で走っても一等賞なんですよ。

嗚呼、恐ろしや恐ろしや。

もちろん、過去にボルトより速い人は誰もいなかったとは100%言えませんが、

それは現実的に有り得ないでしょうね。

さて・・

私は高校時代から陸上部で毎日グランドを走ってた訳ですが、

よく他の部活の奴等から、「ただ走るだけで何が楽しいの?」

なんて言われたりしたもんです。

その時、私は言ってやりました。「ただ走るだけだから楽しいんだよ」

カーックイィ~!

そうなんです。ただ走るだけだからこそ、この競技は深いんです。

私がつくづく面白いと思うのは、

これだけ人類が進歩している中、100mで世界一になる選手はおのずと、

似たような体型、似たようなフォームになりそうじゃないですか。

単にスピードを競うだけなんですから。

しかし、そうはならない。

ボルトに似た体型やフォームじゃないと彼を超えられないかというと、

そうでもない。

当たりまえですが、人間は骨格や筋肉、さらには性格にも個性というのがあるので、

運動力学的にもメンタル的にも理想の走り方は一人一人違って当然です。

かつて日本人はカール・ルイスの華麗なフォームを真似したり、

しまいにはベン・ジョンソンの筋肉さえも真似しようとしたが為に、

逆に世界と大きく差が開いてしまった。

近年の日本短距離陣の躍進のキッカケは、ある時点で、

日本人は日本人らしい走り方でいいんだ、

と気付いたからだと思うんです。あくまで私個人の見解ですよ。

昔、元日本記録保持者の伊東浩司さんが印象深いことを言ってました。

「日本人が黒人選手に勝つんなら、腿を高く上げて走ってる場合ではない」

カール・ルイスのように華麗に走ってる余裕はない、と言っとるんですな。

「黒人選手ほどキックのパワーがあるなら、そういう走り方で構わない。

でも日本人は違うんですよ」

そう言い切った伊東浩司さんは、いち早くそれに気付いたからこそ、

10秒00という偉大なアジア記録を樹立できたのだろうし、

後輩たちにも受け継がれたと思うんです。

世界選手権200m銀メダルの末続慎吾さんも、

あまり腿を上げないフォームでナンバ走法なんて呼ばれてましたよね。

しかし・・・

日本人が短距離種目で世界二位だなんて私は未だに信じられませんよ。

日本人つまり、自分に一番適した走りを高野コーチと共に追求し続けた結果でしょうね。

本当に、どエライ功績です。

そして、当然の如く黒人選手も走り方には皆個性があります。

ボルトと激闘を繰り広げたタイソン・ゲイも、ボルトの走りとは全然違う。

もし、ゲイがボルトと同じ体のサイズなら、ボルト以上の記録が出せそうですが、

単純にそうはならないんでしょうね。そこらへんが面白いところで。

カール・ルイスなんて、人類史上最も美しく走った選手だと私は思ってますが、

かたや、チディ・イモー選手のような不細工なフォームでも(ファンの方スミマセン)

世界の舞台で活躍できる訳です。

私が大学時代、生で観たカール・ルイスの走りは一生忘れられません。

あまりの優雅さに私は言葉を失いました。




少し話を変えますが・・

カール・ルイスを崇めるこの私も、高校の時はベン・ジョンソン派だったんです。

ミーハーでしたからね。

あのソウル五輪、ルイス対ベンの世紀の一騎討ちは本当に興奮しました。

私は学校近くの食堂のテレビで観てましたけど、

全世界が固唾を飲んだのを感じましたよ。

ご存じのとうり、ベンはレース直後にダークヒーローと化しましたが、

とりあえずそれは置いといて・・

私はソウル五輪よりも、その前のローマ世界選手権のベンの走りに大変衝撃を受けました。

なんですかあの、コマ送りのようなスタートは?

衛星中継の電波障害で画面がおかしくなったと思ったくらいですよ。

ベンはスタートからたったの2歩で完全にルイスら他の選手を置き去り、

その差のまんまゴールしました。

スゲーと思いましたけど、これもドーピングによるものだと思うと、

悲しい気持ちになりましたよね。

あと、スタートダッシュという点で私がベン以上に衝撃を受けたのは、

元世界記録保持者のアサファ・パウエルです。

全盛期の彼のスタートから中盤にかけての走りは鬼ですよ。

足を回転させるというより、地面を擦るように前へ前へと足を運ぶダッシュには、

解説の伊東浩司さんも唸ってましたね。

大柄な選手なのに、これほどのスタートができるとは、

よほどインナーマッスルが強いんでしょう。

ベン・ジョンソンの「ロケット・スタート」に対して、

パウエルのは「エクスプローシブ・スタート」と呼ばれてました。

こういう必殺技みたいな呼び名とか、異名ってカッコ良いですよね。

「暁の超特急」と呼ばれた吉岡隆徳さんとか、

「イタリアの青い矢」と呼ばれたピエトロ・メンネアとか。

・・私も相当古い人間ですね。

ベンやパウエルの他にも、わずか10秒足らずのレースで、

一生忘れられないシーンを見せてくれた名スプリンター達は数々います。

その中で私が特に印象に残っているものをいくつか挙げてみましょう。

まず筆頭は、

ロス五輪、カール・ルイスの後半追い上げ

ルイスは手前端のレーンだったので、後半型のルイスがゴール前で余計加速して、

皆をごぼう抜きしたような画になりました。

しかしなぜ、優勝候補のルイスが決勝で端のレーンだったのでしょう?

・・さては、視覚効果で群衆心理を操ろうというアメリカ政府の陰謀か?

いずれにしても、解説者の声が上擦るほど全世界にインパクトを与えたレースでした。

ここから彼の伝説が始まったと言ってもいいでしょう。

容姿端麗、優雅で華麗なフォームと、

最後に抜き去るドラマティックなレース展開・・

やはりこの人には別格の華があります。

あと、東京世界陸上の時もヤバかったですね。

いつものように前半は遅れながらもジワジワと追い上げ、

ゴール直前でトップに躍り出るという冷静で緻密な走り。

こんな芸当、200%自分を信じてないと絶対に出来ませんよ。

しかも世界新記録のオマケ付き・・

そりゃあ、リロイも目ん玉飛び出ますわ。

常に強気で自信家の彼だけに、レース後の涙にも感動させられましたね。

続きまして・・

アトランタ五輪、ドノバン・ベイリーの世界新

この人の走りは、これしか記憶に無いのですが、インパクトは満点でした。

後半型の選手ですが、ルイスとはまた印象が違います。

スタートから一歩一歩、ゴールまで加速し続けているような力強さ、

これには圧倒されましたね。

昔、私が東京のクラブで遭遇した、

フランク・フレデリクスがベイリーの隣で走っていたこともあり、

私にとっては大変感慨深いレースです。

そして最後、極めつけは・・

北京五輪、ウサイン・ボルトの欽ちゃん走り

やはり、これしかないでしょう。

この記事冒頭の写真がまさにそれです。

「世界大会の決勝で、あれほどの圧勝は見たことがない」

と朝原宣治さんに言わしめたとうり、

こんなブッチギリのレース、県大会でもなかなか見られませんよ。

それをオリンピック決勝でやらかすとは・・

このレースでのボルトのトップスピードは超絶でした。

明らかに、他の選手に無い一段上のギアが彼にはあって、

中盤ガコンとシフトチェンジしてアクセル踏んだくらいの勢いでしたよね。

その瞬間の、背景の芝生に注目して見て下さい。

ビックリするような速さで流れてます。

そしてゴール前では、あの欽ちゃん走りですよ。

本人は嬉しくて思わずやっちゃったみたいですが、

あれで人類初の9秒6台ですからね、スゴ過ぎでしょう。

ちゃんとフィニッシュしてれば9秒58をも超えていたのでは?

と思ったりもします。




さてさて、

100mという競技は単純に足の速さを競うので、

他のスポーツの俊足自慢が突如殴り込んで来ることも、ままあります。

私が高校時代、ラグビー選手だった中道貴之さんが、

いきなり手動計示の高校記録を出した時は日本中がひっくり返りましたし、

アメフト選手のロン・ブラウンの活躍を覚えてる方も多いのではないでしょうか。

今でも高校生の県大会レベルなら野球選手やサッカー選手が好成績を出すことも、

たまにはあるでしょうね。

よく、甲子園のテレビ中継で、足の速い選手を紹介する時に、

「この選手は100mで10秒●の記録を持っています」

とか言うじゃないですか。

私が高校時代、それを観ていた100mで沖縄県屈指の選手だった先輩が、

「どーせ追参だろっ」

と、吐き捨てた時は爆笑しました。

「アナタ、県内トップの素晴らしいスプリンターなんだし、

高校球児がいちいち風速測ってトライアルする訳ないんだから、

もっと素直に褒めてあげなよ。大人げないなぁ」

と言いたかったのですが、一年坊だった私はグッとこらえました。

まぁでも・・

公認記録は風速2m以内という厳しい条件下でしのぎを削る、

全陸上選手達の心の叫びを聞いたような気もしますね。

私は短距離の試合に出たことはないので、

レースの感覚とか、緊張感とか、ちょっと想像がつきません。

余談ですが、

映画「炎のランナー」のクライマックス、100m決勝の描写は見事でした。

スタート直前の各選手の緊迫した様子はスローモーションでたっぷりと映し、

号砲からゴールまでは、わずか一瞬・・

まさに、現実もそんな世界なんでしょうね。

さぁ、みなさん、いかがでしたでしょうか?

元スプリンターだったアナタ、

大臀筋とハムストリングはうずきましたか?

最後に、人類で初めて9秒7台で走った往年の名スプリンター、

モーリス・グリーンの名言を紹介して締めたいと思います。

「今日の貴方のラッキーカラーはモーリス・グリーン!」

「そりゃ人の名前じゃねぇかよっ!」

なんていう、お笑い芸人の小ネタがありましたが、

そんなことはさて置き、いきますよ。

レース前にモーリス・グリーンがインタビュアーに言った一言・・

「結果は出ている。みんな知らないだけだ」

・・シブい。シブ過ぎます。

私も一生に一度でいいから、誰かに言ってみたいと思いましたね~

以上!今回も最後まで読んで頂き、大変ありがとうございました。

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