■ バスケットリングに頭が届く人は走高跳の世界記録を跳べるか?
みなさんは走高跳の世界記録がどんだけ凄いのか考えたことありますか?
今回はそこらへんを深く掘り下げてみようと思います。一応、前置きで・・
現在の走高跳の世界記録は、キューバのハビエル・ソトマヨルが1993年に跳んだ2m45です。
未だ破られない偉大な記録ですが、現役選手ではカタールのバルシムがあと2cmまで迫っており今後が楽しみです。
さて、その2m45という世界記録、よくサッカーのゴールポストとか電話ボックスの高さとかに例えられますが、一番分かりやすいのはバレーボール男子のネットの高さでしょうね。
あれをひょいと背中で越えるんですよ。わー凄い!
試しに、みなさんの自宅で2m45cmの高さを実際に測ってみて下さい。ほぼ天井の高さです。呆れますよね。
そこで、
「プロバスケの選手なら、これくらい跳ぶ人はいるんじゃね?」と思ったアナタ、
ナメてもらっちゃあいけませんよ。
・・・実は私もそう思ったんですけどね。
確かにNBAにはバスケットリングに頭が届くほど凄いジャンプをする選手が結構います。
そういう人達が走高跳やったら世界記録出せるんじゃないか?って、思っちゃいますよね。
そこで私は計算してみました。
仮に、あなたが身長2mでバスケットリングに頭が届くほどジャンプできると仮定しましょう。あ、片足で跳ぶという前提ですよ。一応ルールなんで。
バスケットリングの高さは3m05で走高跳びの世界記録が2m45ですから、その差は60cmです。
なので、あなたがフルジャンプした時、世界記録のバーはあなたの頭のてっぺんから60cm下、2mの身長ならばおよそ乳首くらいの高さにくるはずです。
イメージしてみて下さい。それで、どうやってバーを越えますか?
私は、それだけジャンプできたとしても全くバーを越えられる気がしません。
そうっ!!実にソコなんです!
かけられたバーの上を身体の一部分も触れさせることなく全身スルーさせる高等技術!クリアランスの妙なんですよっ!
トップ選手のジャンプ力の凄さは勿論、身体を反り返らせてでも吊り上げた重心軌道の頂点ギリッギリでバーをすり抜けるその妙技っ!
その技を磨きに磨き抜いて、人類は1cmづつ限界を積み上げ、今日の世界記録2m45があるのです!!伝わってますかっ?私のこの興奮がぁっ!!
ふぅ・・失礼しました。
そうなんです。走高跳という競技は単に高く跳ぶだけでなく、高くかけられたバーを越えなければならない競技なんですね。あえて細かい事言いますけど。
なので、たとえバスケットリングより頭が出るくらいジャンプできても、そう易々と世界記録が出せるような競技ではないということです。
参考までに、中国の走高跳選手、張国偉のバスケリング到達ジャンプ(0分47秒あたり)を観てみて下さい。
これだけ高く跳べても彼の走高跳のベスト記録は2m38で、世界記録には7cmおよびません。世界歴代17位の立派な記録ではあるんですけどね。
ということで、みなさんお分かり頂けたでしょうか。
「バスケットリングに頭が届く人は走高跳の世界記録を跳べるか?」という問いに対する私の答えは・・・
「限りなく不可能に近い」
です。さらに言えば、
「片足ジャンプで、バスケットリングよりも最低15~20cm以上頭が出るほどのジャンプ力があり、少なくても3年以上、走高跳の専門技術を習得して試合経験を積めば、世界記録2m45を超えられる可能性はある」
というのが私の見解です。あくまでも可能性ですけども。
■ 「頭上制服」というロマン
走高跳という競技は背の高い人がやるイメージがあると思いますが、意外とそんなことないです。
勿論、背が高い方が有利ですが、反面、背の低い選手の方がジャンプ力があったり、クリアランスが上手だったりもするので。
数々の世界タイトルを獲得した往年の名選手ステファン・ホルムも身長は181cmしかありませんでした。
小さな選手が高いバーを越えるダイナミズムも走高跳の醍醐味の一つなんです。
関連して、走高跳には「頭上征服」という、もう一つの価値観が存在します。
つまり、自分の身長よりどれだけ高く跳べるか?です。
ちなみに頭上征服の世界記録は60cm、日本記録は54cmなんだそうです。(頭上制服の達人フランクリン・ジェイコブスの映像はコチラ)
世界記録保持者ハビエル・ソトマヨルは身長が195cmなので、実に頭上50cmの高さを跳んだことになります。
「バッタ?あなたはバッタですか?」
と声を掛けたくなるほどの驚きですよね。
よく見ればソトマヨルもバッタみたいな顔してますし。
これだけ自分の身長を越えられるのは、単にジャンプ力があるだけでなく、先程述べたクリアランスの技術が抜群なんですな。
■ 走高跳の勝負性の面白さ
走高跳は勝負性という点でも大変面白い競技と言えます。
走幅跳や三段跳は一回でもベストな跳躍ができれば逆転も可能ですが、走高跳は徐々に上がっていくバーに対してベストな跳躍をし続けなければなりません。
試技数も勝敗を大きく左右しますからね。
さらにパスの駆け引きによる心理戦も絡み、勝負は白熱します。
目標のバーが目の前に見えているだけに選手が感じるプレッシャーも半端ではないでしょう。
ずっと良い跳躍が続いていても、ある高さで途端に崩れることもよくあります。
「たった3cm上がっただけで?」と、思うかも知れませんがトンデモナイ。
目の前の3cmは大したことないですが、頭上何十cm上での3cmの差は、とてつもなくデカイです。スキル的にもメンタル的にも。
当然、バーが高くなるほど選手はナーバスになり一回の助走では踏み切れないこともしばしば・・
だからこそ、勝負を決めるような高さをクリアした選手は喜びを爆発させますし、ゴールを決めたサッカー選手同様、スタジアムのヒーローと化すのです。
ちなみに、跳躍後バーが揺れて、あわててマットから転がり降りる選手は少しイケてないですけどね・・
まぁ、とにかくみんな必死なんですよ。
■ 走高跳界の歴代スター達
私も走高跳を経験してるので、オリンピックや世界陸上とかはやはり食い入るように観ちゃいますね。
過去のハイジャンプ・ヒーロー達の素晴らしい跳躍は今も目に焼き付いてますよ。
私と同世代の方は懐かしいかと思いますが・・・
1985年、神戸ユニバーシアードで2m41の世界新を樹立したソ連のイゴール・パクリン。
実に優雅な跳躍をする選手でしたね。にしても、彼の助走メッチャ長くなかったですか?50mくらい走ってましたよ、アレは。⇒ 実際の映像
そして、スウェーデンのパトリック・ショーベリ!見た目もカッコ良かったなぁ~
彼をリスペクトした私は後ろ髪を伸ばしてた時期がありましたよ。金髪までは無理でしたけども。⇒ 実際の映像
あと、いろんな意味でインパクトあったのは中国の朱建華。
内径もせずにバーへまっしぐらの助走とか、上体を反らないクリアランスとか、走高跳のセオリーなど眼中にない豪傑ジャンパーでした。⇒ 実際の映像
それに、先程も紹介したスウェーデンのステファン・ホルム。
あの小さな体で2m40越えは、まさにアンビリーバボーです。
その驚異的なバネもそうですが、クリアランスの匠の技が美しい。
クリアした瞬間、宙返りするんじゃないかというほどダイナミックでしたね。⇒ 実際の映像
そして極めつけは世界記録保持者、キューバのハビエル・ソトマヨル!
なんですか?あの、足首が砕けるんじゃないかと思うほどの踏切のパワーは?
まさに世界一助走スピードを垂直方向へ転換できる怪物です。⇒ 実際の映像
さぁ!東京オリンピックも含め、今後の世界大会ではどんな選手が出てくるのか楽しみですね。
わが日本も戸邉直人選手が2m35の日本記録を樹立したので、東京五輪でのメダルが大いに期待されます。
みなさんも、今回お伝えした視点で観戦して頂ければ、世界レベルの走高跳を更に楽しめると思いますよ。
実は私も、この記事を書いてるうちに元ジャンパーの血が騒いできました・・
しかし、走高跳のマットって気軽に使えないのがネックなんですよねぇ・・誰か手伝って!
今回も最後まで読んで頂き、大変ありがとうございました。