トリプルジャンパーにとって、最大かつ永遠のテーマ、
三段跳のフォームはシングルアームとダブルアーム、どちらが記録は出るのか?
について述べます。
私はこれにだいぶ迷いましたし、実際に両方を経験しました。
同じ悩みを持つ現役選手の方々に、今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
ちなみに私の高校時代のベスト記録は14m76(平成元年当時の沖縄県高校記録)です。
結論。シングルとダブル、どちらがベストか?
一応、用語説明をしておきましょう。
三段跳の踏切において、走る時のように交差して腕を振るフォームをシングルアームアクション、
対して両腕を揃えて振るフォームをダブルアームアクションといいます。
その二つのどちらが記録が出やすいのか?って話なんです。
「選手が跳び易いフォームで構わない」
と言ってしまえば話が終わっちゃうので、続けますね。
私は現役時代、走高跳がそうだからなのか、
三段跳もスピードジャンパーはシングルアーム、
パワージャンパーはダブルアームで跳ぶという固定観念がありました。
しかし、今の世界のトップ選手を見ていると、タイプに関係無くダブルアームが主流で、
逆に日本の選手はシングルアームが主流のように思えます。
これは単に伝統なのかな?という気もしますが、理由はわかりません。
それでは、どっちの方がベストなのか?
私の答えは・・・
シングルアームよりもダブルアームの方が記録は出る
実際、私が高校三年時にダブルアームに変えて、
3ヵ月で自己ベストを40cm(14m36から14m7
さらに、あの世界記録保持者ジョナサン・エドワーズもステップをダブルアームに変えてから18mを突破したという事実(証拠映像がコチラ)
誠にこれは、試す価値ありだと思いませんか?
しかしこれは、ダブルアームをある程度マスターできた場合の話です。
選手によっては向き不向きもあるので、必ずしも良い結果が出るとは限りません。
今回は私の両フォームに対する考えと、どのようにダブルアームを修得したかをお伝えしようと思います。
シングルアームとダブルアームの特性
シングルアームとダブルアームの両方を実践した私の経験を元に、
それぞれの長所と短所を述べてみたいと思います。
まずはシングルアーム。
これは走るように腕を振るので、ごく自然なフォームです。
専門外の人にバウンディングをさせると間違いなくこのフォームになるでしょう。
このフォームの利点は、踏切での接地のタイミングと腕と脚が噛み合うタイミングの両方が取りやすいことと、空中でバランスが取りやすく、腰を捻じるのも容易なので腰を乗せやすいことです。
対してダブルアームは、踏切での接地のタイミングと腕と脚が噛み合うタイミングの両方が取りにくいし、空中バランスも取りにくく、腰を捻じるのも困難なので腰を乗せにくい。
・・・このように、
シングルアームとは真逆で短所だらけです。
じゃあナゼ、私はこれを推すか?
例えば、垂直跳や立幅跳では誰もが両腕を振りますよね?
それは両腕振った方が高く、遠くへ跳べるからです。
また、ボックスジャンプの際にも誰もが両腕を振るはずです。
理由は、両腕振った方が着地の衝撃が緩和できて、かつ大きな反発力も得られるからです。
つまり、垂直方向のパワーを得るには絶対ダブルアームの方が有利なのです。
三段跳でも、トレーニングによってダブルアームの短所を克服できれば、
特に大きな負荷がかかるステップとジャンプの踏切で大きなパワーが得られる訳です。
これは大きいですよ。
なぜなら、三段跳はスピードをいかに殺さないかと同時に、
いかに着地の衝撃に耐えて地面からの反発を得るかが大きなポイントですからね。
私はこれに賭けた訳です。
現役当時はそんな深くは考えてはいませんでしたが・・・
ダブルアームに変えたキッカケ
私の場合、三段跳を始めてから高校二年までは、ホップとステップがシングルアームで、ジャンプはダブルアームという跳び方でした。
これは誰から指示された訳ではなく、これが自分にとって最も跳び易い自然な形だったからです。
良き指導者に恵まれた事もあり、この跳び方で高校二年時に14m25、追参では14m45まで記録を伸ばすことができました。
順調に冬季練習もこなせたので、三年のシーズンには軽く14m50オーバー、あわよくば15mの大台にと期待を膨らませていたんです。
しかし、シーズン突入しても記録が伸びない・・・
かろうじてインターハイ県予選で14m36まではいったものの、高知インターハイではそれ以上の記録を出せずに予選敗退しました。
大きな試合が終わって脱力感もありましたが、沖縄県高校記録樹立という目標もあったので、残りのシーズンのことを考えながらインターハイ会場をブラブラしていました。
すると、たまたま覗いた業者のブースで流れていたVTRに目が止まったのです。
それは当時の三段跳世界記録保持者ウイリー・バンクス氏が直接指導する教材ビデオでした。
バンクス氏の長い手足を生かした見事なダブルアームの跳躍に見惚れてしまった私は、直感的に彼のフォームを真似るべきだと思ったんです。
地元に帰った私はすぐさま猛特訓を始めました。
バンクス選手と同じフォーム、つまりホップのみシングルアームで、ステップとジャンプをダブルアームに矯正する練習です。
私は元々、ジャンプはダブルアームなので、矯正するのはステップのみということになります。
とはいえ、関係者の方はおわかりの通り、ステップは三段跳において最も難しい局面です。
矯正に失敗すれば記録がガタ落ちするのは目に見えてます。
しかも高校最後の大会まであと3ヵ月しかない・・・
間に合うのか?
という不安はありましたが、現状のフォームでは限界も感じてたので私は賭けに出ました。
ダブルアームのコツを掴んだトレーニング
私がやるべきことはただ一つ。
「自分の身体にダブルアームアクションを徹底的に叩き込むべし!」
その為にまずやったのは、「振り出し」と呼んでいた、
片足連続で脚を振り下ろし勢いよく足の裏で地面を叩きつける、という動きの練習です。
元々シングルアームでやっていた練習ですが、それをダブルアームでやるので勝手は違います。
この練習で意識したポイントは次の4つでした。
① 脚をムチのようにしなやかに、より速く振り下ろす。
② くるぶしで地面を捉えるようなイメージで足裏を叩きつける。
③ 足が地面を叩いた時、より身体が浮かび上る腕振りのタイミングを掴む。
④ 体が開かないように踏み切り脚反対側の肩を入れ、十分に腰を乗せる。
この4つがうまく絡めば、地面に大きな力が伝わってビッグジャンプとなるわけです。
この練習は反対脚のバランスも考えながら、ウォームアップ後の最初のメニューとして毎日欠かさずやりました。
これと平行してやったのが、短助走の跳躍練習です。
ダブルアームに慣れないまま、いきなり中・全助走で跳ぶとタイミングが掴めずに潰れるのは目に見えてたので、最初は0歩助走から始めました。
馴れてきたら1歩づつ助走を増やしていきます。
ただし、跳躍が完全に自分のものになるまで歩数は増やしません。
納得いくまで、その歩数で跳躍を繰り返します。
加えて、ビデオでのフィードバックを何回も行いました。
そしてある程度、短助走跳躍が自分のものになった頃に全助走練習を行います。
ただし、ホップのみで最後までは跳びません。
最初は恐怖心のせいかスムーズに踏み切れなかったので、
踏み切り10歩前にマークを置いてみました。
助走始めからマークまでは加速を意識してフルパワーで走り、
マークから踏み切りまでの10歩はスピードを維持しながら接地にアクセントを置いて走ります。
そうすることで僅かにホップの鋭さは失われますが、
跳び出しが安定してステップのタイミングが取り易くなりました。
このような手順で徐々にダブルアームの感覚を自分のものにしていったんです。
ダブルアームに変更して得た成果
私は高校最後の沖縄県秋季大会に照準を合わせてましたが、顧問の先生の計らいで、
その前に九州各県対抗陸上選手権大会に出場させてもらいました。
結果、それは大変幸運なこととなります。
この大会は全九州から一般の選手も参加するので、私がとても上位を狙えるような大会ではありません。
そんなことよりも、私が果たすべきミッションはただ一つ。
「フォームチェンジ後、初の全助走跳躍で、どれだけの結果が出るのか確認せよ!」
一応、練習どうりに踏み切り10歩前にマークを置いて慎重に跳躍した結果、
あっさりと14m40台の自己ベストが出ました。
全く手応えがなかったにも関わらず、です。
感覚的にスピードも伸びもイマイチだったのに、記録を聞いて「アレッ?」って感じでした。
この結果に私は興奮しました。
あの程度の感覚で自己ベストが出たということは、まだまだ記録は伸びると確信したからです。
この試合で自信をつけた私は、本番の秋季大会をベストコンディションで迎えることができました。
その本番では、10歩前のマークは置かなくてもフルスピードでスムーズに踏み切れましたし、
跳躍全体もぎこちなさが取れ、完璧な手応えでした。
結果、14m80の追い風参考記録で優勝、公認記録では14m76と、念願の沖縄県高校記録(平成元年当時)を樹立することができました。
私にとって最高の結果でしたが、ただ一つ悔やまれるのは、ファウルながら実測14m97のビッグジャンプがあったことです。
ダブルアームに変えて努力した結果、わずか3ヵ月で40cm、参考では60cmも記録を伸ばせたことになります。
あとがき
最後になりますが、現在、三段跳という素晴らしくゴキゲンな競技に青春を捧げている選手諸君と指導者の方に私は言いたい。
シーズンオフにでも、ぜひダブルアームを試してみて下さい。
もちろん、基礎からみっちりですよ。
もしダメでもシングルアームにはすぐ戻せますからね、大丈夫です。
ただし、嫌々はやらないで下さいね。
特に指導者の方は選手に強制させるのは御法度。柔軟性を持って御指導お願いします。
選手が嫌々やっても成功しませんし、怪我も怖いですからね。
参考までに、私がダブルアームに変えたキッカケとなったウイリー・バンクス氏の世界記録更新の動画と、
ダブルアームの名手マイク・コンリー氏の動画を観てみて下さい。
良いイメージになること間違いなしです。
今回も最後まで読んで頂き、大変ありがとうございました。